放課後の渡り廊下

教育に関してあれこれ迷い悩みながら書いています。

学習記録を介した対話と「博士ノート」の実践  —9月の振り返り

授業記録9行に耐えうる授業とは 

もうすぐ前期の授業が終わる。

 前期期末テストが終わり,前期分の授業プリントや授業記録ノートをまとめて冊子型の学習記録を作成した。あとがきには,前期の授業で印象に残っていること,学んだことを書いてもらった。どの記録も興味深い発見があって読み手としては面白い。

それらの記録を間に挟みながら,数分の面談を行う。一人ひとりの得意なこと,苦手なことを確認しながら,具体的な記録の書き方の特徴を伝え,さらに成長できそうなポイントを伝える。60時間近くの授業の記録を読んでいくと,それぞれの頑張りが形となって現れているものもあれば,記録としては残されていないものもあり,それぞれの学習者のこれまでの学びのエピソードを掘り起こしながら,数分間の対話の時間となる。

多くの生徒には,記述量の向上を目指して欲しいと伝えている。具体的には授業記録9行以上を目指して書こうと伝えている。科学的な根拠はないのだけれど,授業の事実だけを書くにしても,2・3行では具体的な授業の記述が見られない。9行程度書くためには,授業の詳細な描写や,他者の発言内容,自分が授業の間に考えたことや新たな問いを立てるような記述が必要になってくる。

もちろんそのためには,9行以上に耐えうる授業内容が必要で,授業記録を2〜3行しか書けないというのは,授業の質の問題もある。授業改善なくして学習者の記録の充実はないことも肝に銘じなければならない。

学習記録を介した対話

この面談の私のイメージのベースとなっているのは,宝物ファイルの実践やポートフォリオ評価法の生徒と教師の対話場面だ。

ポートフォリオで「できる自分」になる!
 

残念ながら,初回の対話の時間上,どちらかというと学習者側がまだあまり慣れていないためにこちらの話を聞いて,「頑張ります」というリアクションで終わる,というパターンが多い。もう少し丁寧に,学習者の話を聞く場にしたいとは思いつつも,評価を伝える場面として機能してしまっているので,この辺りは後期にもう少し見直したいところではある。

とにかく学級40人一人ひとりと話をする時間を持つことを目標としているので,内容の質は問わずに,これから何回か行っていく中で学習者にとっての振り返りを深める対話になることができたらいいなと思っている。

自由進度学習としての「博士ノート」

学習記録を介した個別の対話の時間と並行して,今進めている単元学習は「博士ノート」の実践である。

教材は三浦哲郎の小説『盆土産』で「作品の温かさはどこからくるのか」を最終課題とし,その前段階の学習として,以下の8つのコースを学習者が選択して取り組む時間を設定している。

  1. 素読コース(音読・黙読・速読などを選択して,気づいたことを書く)
  2. 語句コース(難しい語句などを調べてショートストーリーを書く)
  3. 人物コース(登場人物のイメージ図と作中での表記を書き,リストとしてまとめる)
  4. 場面コース(いくつかの場面にわけ,それぞれに小見出しをつける)
  5. 展開コース(小説を読んだことがない人に知らせるように起承転結で説明する)
  6. 台詞コース(印象に残ったセリフについて説明し,物語での役割や効果を説明する)
  7. 表現コース(印象に残った場面についてその理由を説明する)
  8. クイズコース (作品の内容に沿った問題と答えを作成する)

全てB51枚のワークシートを作成し,好きなところから進める。

完成したワークシートは提出して,チェックを受けたら次に進める。

スタンプラリー形式でもあり,学習者はいくつの課題をクリアできるか,ゲーム感覚で進められている様子が見られているのが面白かった。学習記録と合わせて読むと,クイズ作成が意外と読み込みが必要となり,自然と読みを耕す仕組みになっていることがわかって面白かった。

台詞コースや表現コースは,1年生の時の小説の授業や,2年生前半の「アイスプラネット」の授業でも似たような課題を行っているので,それらの学習を踏まえた取り組みが見られ,学習の蓄積も感じられるような成果物となっている。

ライティング・ワークショップなどで見られる「ミニレッスン」を挟むのも,この活動には合っているかなと思い,冒頭で「呼称」の話や(この作品は主人公の名前や呼称が出てこないという問題がある)繰り返されるキーワードの話(「えびフライ」と「えんびフライ」)などをして,問題点の整理をしてから課題に取り組むようにした。単なる活動の消費になってしまうことなく,問題点を自分なりに考えて表現する生徒が少しだけ増えてくるようになった。

交流場面をどうするか

それぞれの生徒が自分で課題を選択して進めていく方法は意欲的に取り組んでいる生徒も多く,学級の1割くらいの生徒は全てのコースを終えて,自分で課題を設定する「博士コース」にも進むことができている。

これからの課題は,交流場面でさらに読みが深まる仕掛け作りができるか,ということだ。おそらくこれまでの自分の授業であれば,ジグソー法やワールドカフェのような形でお互いの課題を持ち寄って自分が取り組めなかった課題から学ぶ場を設定することを選択していただろうと思う。しかし,コロナの中で過剰な交流の場を設定するのは抵抗を感じる生徒も少なからずいる。結果,提出されたワークシートを紙上討論の形でお互いに読み合い,そこから抽出されるポイントを各自でまとめる活動を予定しているが,プリントを作成するだけでも教師側の負担が重い。持続可能性を考えると,ベストな方法の選択ではないように思う。余白を読み込む力も試されるので,なかなか難しい面もある。他者の考えに触れることで新たな見方や課題を獲得する仕掛けを作っていくにはどうしたらいいのか。

まだまだ逡巡しながら単元を進めていくことになりそうだ。